「海を見ていた午後」の分析最終回です。前半はこちらから。
【歌詞分析】心を掴む秘密は?ユーミンの「海を見ていた午後」の歌詞に学ぶ①
【歌詞分析】心を掴む秘密は?ユーミンの「海を見ていた午後」の歌詞に学ぶ②
最後の歌詞の部分を私なりに解釈してみました!
窓にほほをよせて カモメを追いかける
そんなあなたが 今も見える テーブルごしに
この部分は、前のシーンに引き続き『彼とのあの日』を連想しているシーンから、余韻を残してレストランの情景へと移り変わっていきます。
そして、窓にほほを寄せながらカモメを追いかけるあなたが「テーブルごしに」見えるとありますが、私の想像では、かつて恋人時代だったときには、2人で窓際の席によく座っていたのかなと。
でも、今は窓辺よりも少し離れた席に座っている。そして、主人公の視線の先には、あの日、窓際の席に座ってカモメを眺めている彼と主人公自身を、今の主人公が眺めている…。
レストランの中で繰り広げられる光景が何重にもなって、とてもドラマチックですよね。
ちなみに、窓にほほを寄せてカモメを追いかける彼の姿は、少し子供っぽく無邪気な人柄にも解釈できるし、静かに窓に寄りかかりながらカモメを眺めている様子ならクールな大人の男性にも解釈できます。
ここは、聴き手の想像の余地を残したのかな?と私は感じました。
こういった細かい部分までも、繊細に設定されている気がして、ユーミンの作詞の素晴らしい感情に感嘆してしまいますね。
紙ナプキンには インクがにじむから
忘れないでって やっと書いた遠いあの日
いよいよ最後の1行です。「紙ナプキンには インクがにじむから」の部分は、この情景を伝えるだけなら「紙ナプキンに書いたメッセージ」とかの表現でもよかったわけです。
でもユーミンが、「紙ナプキンには インクがにじむから」という表現を持ってきたのは、失恋によって涙がにじむのと、インクのにじむのをかけたのかなと感じました。
そもそも、誰もが一度は見たことがあるような、「紙ナプキンにインクがにじむ様子」って、本当に何気ないささいな日常の出来事ですよね。
いざ「作詞しよう」と思ったとしても、この現象って簡単には出てこない表現です。
この表現が出てくるということは、普段からユーミンが感性のアンテナを張り巡らせて世界を見ているということ。ひらめきを待って降りてくればいいですが、いつも素敵な表現が降りてくるとは限りません。作詞する者として、普段から言葉をストックしておくことがいかに大切かを痛感しました。
そして、紙ナプキンににじんだ文字で書いたのが「忘れないで」という言葉。「また付き合って」でも、「今でも好きです」でもなく、控えめな「忘れないで」という言葉なのが、主人公の性格を表しています。
遠いあの日、「忘れないで」と書くだけなのに「やっと書いた」という表現からも、この失恋の切なさが伝わってきますね。
歌詞を分析してわかったこと
今回は、松任谷由実さんの「海を見ていた午後」の歌詞をじっくり分析してみました。
今まで感覚で「素敵な歌詞だな」と聴いていただけでしたが、このサイトを始めることになり、いざ分析してみて、改めて素晴らしさに気がつきました。
たくさんのテクニックや細かな設定が、聴くだけで鮮明な映像が浮かぶ歌詞を作り上げていたのですね!素晴らしい歌詞を読むと、つい「こんな歌詞書けない」と思ってしまいがちですが、そんな想いを抱いてしまう人のためにこのサイトを作りました。
私自身も、このサイトを通してテクニックを研究し、みなさんと一緒に成長していきたいと思います♪
そして、作詞には普段からの『言葉のストック』が大切だとも痛感しました。料理にたとえると、材料が少ししか入っていない冷蔵庫と、たっぷり材料や調味料が詰まっている冷蔵庫では、作れる料理の可能性は無限大に広がります。
私たちも日頃から、頭の中にたくさんの言葉をストックして、それぞれにしかできない偶然の組み合わせで誰かの心に残る歌詞を書いていきたいですね!
言葉LABOの最初の講座、私が長年かけて培ってきた作詞ノート術の講座も、ぜひ活用してみてください。では、また次の歌詞分析もお楽しみに♪



