なぜスピッツの歌詞は「詩」になる？草野マサムネの作詞の特徴5つ

特徴1：「反対のイメージの言葉」を使う

スピッツの歌詞には、淡々と歌われるメロディーの中に、毒のある言葉や、ピリッとインパクトのある言葉がアクセントとして散りばめられています。

• 『チェリー』：あんなに爽やかな曲なのに、「悪魔のふりして　切り裂いた歌を」と歌います。
• 『猫になりたい』：愛らしいタイトルなのに、「消えないように　キズつけてあげるよ」と歌います。
• 『空も飛べるはず』：自由に空を飛べるはずという前向きな歌詞に「ゴミできらめく世界」と、正反対の言葉が組み合わさっています。

ただ、「綺麗」「好き」と美しい言葉ばかりを綴るだけでは、歌詞は薄っぺらくなってしまう場合があります。 あえて正反対のイメージ（光と影、天使と悪魔など）を同じ曲の中に同居させることで、歌詞に忘れられない「深み」と「人間らしいリアリティ」が生まれやすくなります。

特徴2：「君」に向けて徹底的にメッセージを送る

スピッツの曲の歌詞を見ていると、「君」という相手に対して言葉を綴る曲が多いですよね。

たとえば、『チェリー』の歌詞も最初に「君を忘れない　曲がりくねった道を行く」と、最初に語りかける相手は「君」だと明言しています。

ほかにも…

『ロビンソン』では、「走る君を追いかけた」「誰にも触れない　二人だけの国」
『空も飛べるはず』では、「君と出会った奇跡が　この胸にあふれてる」
『楓』では、「心のトゲさえも　君が笑えばもう　小さく丸くなっていたこと」

このように、「僕」と「君」の2人の世界を明確に絞って歌うことで、聴き手は「君」に自分を投影しやすくなります。結果、「私のために歌ってくれている」と感じ、相手の感情を動かすことができるのです。

特徴3：映画的な「情景描写」

スピッツの歌詞の特徴の一つに、映画のような情景描写があります。

たとえば、『涙がキラリ⭐︎』には、「浴衣の袖のあたりから　漂う夏の景色」とあります。ただ目の前に広がる夏の景色を描くのではなく、浴衣から景色に映るカメラワークが、ドラマチックな映像を作り出していますよね。

ほかにも『猫になりたい』では、前半に「広すぎる霊園のそばの　このアパートは薄ぐもり」とあり、その後に「目を閉じて浮かべた密やかな逃げ場所は　シチリアの浜辺の絵ハガキとよく似てた」と出てきます。

「霊園のそばのアパート」から「シチリアの浜辺」へと、自由自在に聴き手の頭の中の映像を瞬間移動させてしまうテクニックは、素晴らしいですよね。

特徴4：動物や自然に語らせる

スピッツの歌詞には、猫や多くの動物や自然が出てきますよね。

生き物としては、犬、猫、しろくま、ネズミ、クジラ、トラ、トカゲ、カラス、スズメ、そのほかまだまだたくさん出てきます。

植物としては、ガーベラ、たんぽぽ、クローバー、チェリー、ミカン、ラズベリーなど、こちらもたくさん出てきますね。

そして、それらを時に「自分の分身」として使ったり、「感情の象徴」として巧みに使うのも特徴の一つです。

『猫になりたい』の歌詞では「猫になりたい　君の腕の中」と、猫に例えることで、ただ「君の腕の中にいたい」という思いを、より世界観を加えながら歌詞に変えています。

「歩き出せ、クローバー」の歌詞では、青々と生えてくる幸せの象徴であるクローバーを、同じく若くて青い幸せいっぱいの若者に例えて、人生におけるエールとなるメッセージを歌詞に込めているように感じます。

ただ言葉でメッセージを解説するよりも、動物や自然を象徴として使うことで、あなたらしい世界観を加えることができますね。

特徴5：斬新な言葉の組み合わせ

最後の特徴として、斬新な言葉の組み合わせが挙げられます。この言葉の組み合わせや発想こそが、草野マサムネさんの歌詞の世界観を作っていると言っても過言ではありませんよね。

たとえば、

・『涙がキラリ⭐︎』の歌詞：「目覚めてすぐのコウモリ」「浮かんで消えるガイコツ」
・『スピカ』の歌詞：「粉のように飛び出す　せつないときめきです」
・『スターゲイザー』の歌詞：「ゴミになりそうな夢ばかり」

このように、普段日常で意識している限りでは組み合わせとして出てこない言葉が、スピッツの歌詞の面白さでもあります。